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【特別インタビュー】 プロ卓球選手 水谷隼の2020年とこれから(後編)

 コロナ禍の中、水谷隼(木下グループ)が今とこれからについて語ってくれた特別インタビュー。前編では、自粛期間中の過ごし方や、さまざまな大会が中止になり、活躍の場を奪われた選手たちへのエールを水谷が語ってくれた。
 後編では、東京オリンピック延期やコロナ禍への向き合い方について、水谷の思いを紹介する。
前編はこちら

「先のことは分からない。日々努力して自分を高めていくだけ」

 この夏に予定されていた東京オリンピックの延期は、新型コロナウイルスがもたらした影響の中で最大のトピックスの一つだ。
 熾烈な選考レースを戦い抜き、日本代表候補選考基準をクリアした水谷にとって、東京オリンピックの延期はどんな意味を持つのだろうか。

--東京オリンピックの延期についてはどのように受け止めていますか?
 去年(2019年)1年間はめちゃくちゃ試合が多くてハードで、年末に(2020年東京オリンピックの)選考レースが終わりました。そこから東京オリンピックまで半年しか期間がなかったので、調整するには少し短いと思っていました。
 1年延期になった分、自分の調整期間が1年長くなったので、その点についてはよかったかなと思いますね。

--東京オリンピックについては、規模縮小や中止などもささやかれ始めていますが。
 そうですね。ただ、オリンピックが開催されるにしても中止になるにしても、それは受け入れるしかないし、今できることをやるだけです。先のことを考えても仕方がないですから。コロナの影響だけじゃなくて、例えば地震とか、何が起こるのか先のことなんて分かりません。
 僕としては、今は卓球ができる環境に戻ることができたので、日々努力して自分自身を高めていくだけです。

--目標の大会が遠ざかり、モチベーション維持という点ではどうでしょうか。
 目標がない分、モチベーションを保つのが難しいのは難しいです。
 でも、自分は卓球が好きなので、好きなことが毎日できて全く苦ではありません。

--勝たなければいけないプレッシャーがない分、楽しめているということ?
 そうだと思います。ただ、日に日に自分の成長を感じることができています。今は試合がありませんけど、いずれ来る試合のためにしっかり準備しています。

再び躍動できるその日まで、水谷は自分自身を高める

「アスリートは特殊な職業なんだと痛感した」

 日本はもちろん、世界中に暗い影を落とした東京オリンピックの延期だが、当の水谷は至って冷静に受け止めている胸の内を明かしてくれた。
 やがて来る舞台のために準備を続けているという水谷だが、新型コロナウイルスによる不安定な情勢はこれからも続いていくだろう。
 水谷は、彼らしい感性や捉え方で、コロナ禍に置かれて思うところやこれからの向き合い方を語ってくれた。

--この状況はまだしばらく続きそうですが。
 そうですね。コロナ禍になって1番思うのは、「アスリートって特殊なんだ」ということ。本当に特殊だと痛感しています。

--どのあたりが特殊なのでしょう?
 仕事がないんですよね。スポーツすること自体が仕事なので。緊急事態宣言が出ても、一般の人はテレワークなどで何かしら仕事をするわけじゃないですか。アスリートには、その仕事がない。でも、収入は一応あるわけで。ある意味、仕事がないのに収入があるので幸せと言えば幸せです。
 ただし、当然リスクはあります。コロナの影響で企業の業績が下がったり倒産したりしたら、スポーツは真っ先に切られる。そのリスクは常に感じていなければいけないと思っています。
 このような状況でも収入がある半面、いつスポンサーが降りて収入がなくなるか分からないリスクが常につきまとうのがアスリート。今回の件で、いい部分もあるし、悪い部分もあるなと思いました。

--メリットとデメリットを聞くと、確かにアスリートは特殊な職業ですね。
 だから、今のこういう状況の中でも、僕を支援してくださるスポンサーに少しでも宣伝効果があるようにと思い、できる限りの活動はしています。ライブ配信では、スポンサーのロゴが入っているウエアを着るよう心掛けていますし、最近ではいろいろなトップアスリートが出ているNowVoice(ナウボイス)を始めました。
 そんなふうに、自分が少しでも広告塔としてスポンサーに還元できるよう努力は続けています。

--最後に、水谷隼のこれからを教えてください。
 卓球をやるしかないです。世の中のほとんどの仕事は、どの仕事でも必要とされているし、何かのために仕事していると思うんです。今だったら、そのトップにいるのが医療従事者だったり、政治家だったりで、彼らが頑張って世の中を動かしていて、さらにいろいろな人が仕事を回して、そのおかげで日々自分が生活できています。
 それに比べると、アスリートって世間からしたら何の役にも立たないんですよね。それを、今回めちゃくちゃ感じました。「仕事はアスリートです。プロ卓球選手です」って言っても、世の中の暮らしには何の役にも立っていない。
 ただし、今は、です。いずれ、コロナが落ち着いてきて、みんなの生活が普通に戻ってきた時、夢や希望を与えられる仕事は、アスリートが一番だと思うんです。
 その時に、ちゃんと夢や希望をみんなに与えられるよう、自分は鍛えていかなければいけないと思っています。コロナが落ち着き、みんなに余裕が出てきてスポーツ観戦しようとなった時、恥ずかしいプレーは見せられない。「なんだそのプレーは!」と思われるようでは、アスリート失格です。
 今は、夢や希望を与えられる場がやって来た時のためにしっかり準備しなければいけない期間だと思うし、それを目標にして日々を過ごそうと思っています。


 駆け足で行ったインタビューだったが、水谷は彼らしい言葉で今の心情を語ってくれた。「世の中の役に立っていない」と語られた時は、その率直さに思わずはっとしたが、それは、アスリートという過酷な職業に身を置いている自分の役割をわきまえているからこそ、発せられた言葉だ。
 来たるべき舞台で輝くために、これからを過ごしていくという水谷。コロナ禍による厳しく不透明な状況が続いているが、卓球を愛する者にとって、水谷隼の勇姿を再び見るということは、今を耐える一つの糧になるのではないだろうか。(了)
(文中敬称略)
前編はこちら

みんなが水谷隼の勇姿を待っている

(取材/まとめ=猪瀬健治)

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